瘢痕(はんこん)化した心臓組織を3Dプリント、不整脈のリスクを測る

ふたつの病院から成る「ロイヤル・ブロンプトン&ヘアフィールドNHS財団」は、以前から治療に3Dプリントを活用してきたイギリス・ロンドンの国営医療機関。心臓と肺の医療に特化したこの財団では、先日患者の心臓MRIスキャン画像に基づいた心臓モデルの3Dプリントを新たに開始しました。何よりも最も革新的なのは、彼らが心臓の瘢痕(はんこん)部位を可視化して3Dプリントする方法を開発したことです。

瘢痕(はんこん)化した心臓組織の3Dプリンタ製モデル

瘢痕とは潰瘍、創傷、梗塞による壊死などによって生じた様々な器官の組織欠損が肉芽組織の形成を経て、最終的に緻密な膠原線維や結合組織に置き換わる事で修復された状態のことを指します。特に心臓疾患や外科手術の結果として生じる心臓の瘢痕は、時として命を脅かす不整脈の原因ともなるもの。

3Dプリントされた心臓モデルを手に取れば2D画像では捉えづらい生体構造も詳細に理解できる

トラストに属するロイヤル・ブロンプトン病院の名誉顧問で心臓専門医、さらにインペリアル・カレッジでの臨床上級講師も勤めるソニャ・バブ─ナラヤン医師は、これから心臓瘢痕の影響を研究・調査する上で3Dプリントがキーになると考えています。3Dプリントされた心臓モデルを手に取れば2D画像では捉えづらい生体構造も詳細に理解でき、手術チーム内で情報を共有する際のコミュニケーションがスムーズになるためです。さらに研修医に手術手順を練習する場を与えられるなど、臓器モデルの3Dプリントは従来の研究に付加価値を与えます。心臓瘢痕に関する研究の目的は、不整脈につながる種類の瘢痕ができる原因を解明すること。3D臓器モデルによって得られる洞察が、不整脈を持つ患者の健康管理の改善につながると考えられています。

心血管磁気共鳴(CMR)スキャン画像に基づいた心臓モデルの3Dプリントを新たに開始したロンドンの病院

ジョナサン・ハヴレさんは医用3Dプリントの有効性を実際に体感した一人。彼は以前心臓が4つの構造欠陥の影響を受ける先天性心疾患「ファロー四徴症」治療のための手術を受けていたため、医師らはその手術で発生した心臓瘢痕が不整脈のリスクをもたらすかどうか、精確な評価を下す必要性があったのです。

ハヴレさんの外科医はマテリアライズの臨床エンジニアと共に彼の心臓MRIスキャンからデジタル3Dモデルを抽出してコンピューター上で再構築。ハヴレさんの心臓形状を1つのファイルに、瘢痕組織はよりクリアに可視化するため別のデータセットとして保存されました。

Materialise Mimics上で3Dモデルとして可視化された心臓のイメージ
Materialise Mimics上で3Dモデルとして可視化された心臓のイメージ(ハヴレさんの心臓ではありません)

最終的にはマテリアライズの光造形3Dプリンターに心臓の形状と瘢痕組織を合わせた3Dデータを送信。造形後の心臓模型は病院の医師のもとへ届けられました。自身の心臓模型を手にすることで、ハヴレさんも自分の身体に何が起こっているか、理解する助けになったといいます。

ハヴレさんの心臓の3Dモデルを持つ、ソニャ・バブ─ナラヤン医師と患者のジョナサン・ハヴレさん。
ハヴレさんの心臓の3Dモデルを持つ、ソニャ・バブ─ナラヤン医師と患者のジョナサン・ハヴレさん。©Royal Brompton & Harefield NHS Foundation Trust

バブ─ナラヤン医師は、医用3Dプリントの未来は明るいと語ってくれました。「世界中で技術が絶えず進化し続けているなか、我々は3D画像と3Dプリントが持つ潜在的な力とその臨床的用途の、ほんの表面だけを目にしているにすぎません。デジタル画像が保持できる膨大な情報と、3Dプリントしたモデルの直接触れられるという両方の利点を活かしたインタラクティブな3D技術も登場し始めていますよ」

ロイヤルブロンプトン病院及びヘアフィールド病院での3Dプリントプログラムは、寄付によって運営されています。彼らのイニシアチブ継続へご協力いただける方は、こちらで寄付の詳細をご覧ください。

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